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福岡高等裁判所 平成10年(行コ)22号 判決 1999年6月04日

一審原告

市民オンブズマン連絡会議・佐賀

右代表者代表

川原進

畑山敏夫

一審原告

畑山敏夫

一審原告

味志陽子

右三名訴訟代理人弁護士

宮原貞喜

河西龍太郎

本多俊之

中村健一

西林慶一

団野克己

東島浩幸

辻泰弘

稲津高大

焼山敏晴

浜田愃

一審被告

佐賀県知事

井本勇

右訴訟代理人弁護士

安永宏

牟田清敬

池田晃太郎

右指定代理人

陣内一博

外一一名

主文

一1  一審原告味志陽子の控訴に基づき、原判決中、一審原告味志陽子の請求のうち、原判決別紙文書目録三記載1の文書中の懇談会等に出席した公務員の勤務先ないし職場の電話番号の記載されている部分を開示しないとの処分の取消請求を棄却した部分を取り消す。

2  一審被告が一審原告味志陽子に対し、平成七年五月二四日付けでした原判決別紙文書目録三記載1の文書中のうちの懇談会等に出席した公務員の所属する部署とその職場の電話番号の記載されている部分を開示しないとの処分を取り消す。

3  一審原告味志陽子のその余の控訴を棄却する。

二  一審原告市民オンブズマン連絡会議・佐賀、一審原告畑山敏夫及び一審被告の各控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、一審原告味志陽子と一審被告との間においては、一、二審を通じ、一審原告味志陽子に生じた費用の五分の四を一審被告の負担、一審被告に生じた費用の二〇分の一を一審原告味志陽子の負担、その余は各自の負担とし、一審原告市民オンブズマン連絡会議・佐賀及び一審原告畑山敏夫と一審被告との間においては、控訴費用は各自の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  一審原告ら

1  原判決中、一審原告らの敗訴部分を取り消す。

2(一)  一審被告が一審原告市民オンブズマン連絡会議・佐賀に対し、平成八年一一月一三日付けでした原判決添付の別紙文書目録一記載1(二)の文書の部分を開示しないとした処分を取り消す。

(二)  一審被告が一審原告畑山敏夫に対し、平成八年一一月一三日付けでした同目録二記載1(二)の文書の部分を開示しないとした処分を取り消す。

(三)  一審被告が一審原告味志陽子に対し、平成七年五月二四日付けでした同目録三記載1(二)及び(三)、並びに同2及び3の各(二)の各文書の部分を開示しないとした処分を取り消す。

訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。

二  一審被告

原判決中、一審被告の敗訴部分を取り消す。

一審原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも一審原告らの負担とする。

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次のほかは、原判決の「第二 事案の概要」(原判決五頁一二行目から五五頁二行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

一  一審原告の主張

1  本件条例の性質について

本件条例の規定する公文書開示請求権は憲法二一条の「知る権利」を具体化するものである。特に、知る権利のうち政府・行政情報の開示請求権としての知る権利は、民主主義・国民主権の原理にも由来する。

原判決は、公文書開示請求権が本件条例により創設された権利であると判示するが、そうではなく、本件条例は、公文書開示請求権が人権上及び民主主義原理上の重要な位置を占めていることを踏まえて、憲法の要請に基づいて制定されたというべきである。

このことは、本件条例一条が「この条例は、公文書の開示を請求する県民の権利を明らかにする。」と規定しており、「権利を定めた。」あるいは「権利を創設した。」との文言を用いていないこと、手引き(佐賀県情報公開条例の解釈及び運用基準、甲一)の三条の解釈では「公開の原則を基本として、公文書の開示を請求する権利が尊重されるようつとめなければならない」として公文書の開示が原則であることを謳い、かつ、個人に関する情報については、そのうち、正当の理由のあるものに限って保護されるべきものとしていることからも明らかである。

また、本件条例は、個人に関する情報について鹿児島県条例が「最大限の」配慮を要請しているのと異なり、「最大限」という形容詞を用いていないが、このことからすれば、本件条例は、個人の基本的人権と公文書開示請求権とが衝突する可能性のある場合には、後者を優先させるよう解釈運用されるべきものである。

2  公務員の振替先金融機関の口座番号について

公務員の振替先金融機関の口座番号自体は、公務員の財産内容を示すものではないから、これを開示することが公務員個人のプライバシーを侵害することにはならない。他方、これらが開示されることによって初めて出張旅費等が実際に当該公務員の口座に振り込まれたかどうかが分かり、公金が適法に支出されたかどうかがチェックできる。一般県民が税金の使途を明らかにすることを要求することは、県民主権、住民自治の見地から、当然の権利であり、これに対し、支障のない限り、最大限の公開に努めることが、公務員の義務である。

したがって、公務員の振替先金融機関の口座番号は、本件条例六条二号には該当しない。

3  公務員の電話番号について

公務員が所属する部署とその職場の電話番号は、公務の遂行や県民に対する行政サービスを円滑にするために、広く公開されるのが原則であり、公務員の私生活上の情報とは全く関係がない。

また、公務員の自宅の電話番号は、一般市民に配布されている電話帳や県情報公開室で誰もが閲覧・謄写できる職員録に掲載されているし、電話局の電話番号案内によっても容易に知ることができるのであって、秘匿されているものではない。

したがって、公務員の電話番号は、本件条例六条二号には該当しない。

4  債権者の振替先金融機関口座に関する情報及び印影について

本件条例六条三項の「法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報で、開示することにより、当該法人等又は当該個人に明らかに不利益を与えると認められる」情報とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報にして公然知られていないものであって、その開示により競争上の地位その他正当な利益に対する実質的な被害が客観的に生じると明らかに認められるものに限ると解すべきである。

本件において非開示とされた債権者の金融機関口座に関する情報及び印影は、債権者が発行する請求書に記載・押捺されているものであって、秘密として管理されているものではなく、むしろ広く公開されているものというべきである。また、右の情報は、当該口座の取引内容や残高に関する情報を含むものではない。したがって、右の情報は、その開示により競争上の地位その他正当な利益に対する実質的な被害が客観的に生じるような情報でないことが明らかである。

また、右の情報の開示が、技術開発上、営業販売上、経営管理上及び信用上の支障などを生じさせるものということもできない。

右のとおりであるから、債権者の振替先金融機関口座に関する情報及び印影は、本件条例六条三号には該当しない。

二  一審被告の主張

1  本件条例の解釈について

本件の公文書開示請求権は本件条例によって創設された権利であるから、その権利の具体的内容は、本件条例の規定の具体的文言によるべきである。

また、本件条例は、非開示事項について、「開示をしないことができる。」という文言ではなく、「開示をしないものとする。」と規定し、実施機関による裁量の余地を認めないものとなっているのであるから、その運用は、規定の文言を形式的に解釈して運用すべきものである。

これに対し、原判決は、本件条例六条二号が個人識別情報を非開示とすることを定め、これについて何らの限定を付す規定を定めていないにもかかわらず、その情報が個人識別情報であることに加え、プライバシーに関するものであることをも非開示の要件としたり、非開示とすべき個人識別情報に当たるか否かについて、公務員と非公務員との間に差異を設けたり、懇談会について、内容協議目的かそれ以外の単純な事務打合わせかという判断基準を設けたりするなどしているが、これらは、いずれも明文の根拠がなく、また、本件条例の形式的解釈による運用を妨げるものであって、不当である。

2  本件条例六条二号について

本件条例六条二号は、個人識別情報を非開示とする旨定めているが、これは、一律に個人識別情報を非開示とすることで広く個人情報を保護する趣旨であると解される。

これに対し、原判決は、個人識別情報であることに加え、その情報がプライバシーに関するものであることを非開示の要件としているが、これは、前記1のとおり、明文の根拠を欠くものであり、また、本件条例の形式的解釈による運用を妨げるものであって、不当である。

3  本件条例六条三号について

債権者の請求書には、売上品名、単価などが記載されているが、これらは同業者の間において明らかにされるべきではない情報である。また請求書が開示されると、一定期間における県との取引状況(利用頻度・利用額等)や総売上額等の本来秘匿すべき情報のすべてが外部に流出することとなる。このように、債権者の請求書は、不特定多数の者に開示することを予定しない内部管理情報が記載されているものであるから、本件条例六条三号に該当するものである。

4  本件条例六条六号について

(一) 本件条例六条六号の「開示することにより、当該検査等若しくは同種の検査等を実施する目的を失わせ、これらの検査等の公正かつ円滑な実施に著しい支障が生じ、又はこれらの検査等に関する関係者との信頼関係若しくは協力関係が著しく損なわれるおそれがあるもの」の「おそれ」とは、将来の不確定な可能性についての予測であるから、抽象性を捨象することができない。したがって、非開示の要件として、具体的に右のおそれが存在することが必要であるとするのは不当である。

(二) 原判決は、本件文書のうち、懇談会等(食糧費支出)の目的(名称)・開催場所・出席者の氏名等出席者が識別できる情報が記載されている部分について、協議内容の了知可能性はないと判断しているが、会議名、出席者名が判明すれば、会議内容そのものの予測がついたり、出席者に会議内容を問い合わせて具体的な発言内容を知ることも可能である。

また、本件文書のうち、復命要旨が記載されている部分には、補償基準の見直しや改正に関する事項が記載されているものであるところ、これが外部に漏洩されてならないものであることは、当然のことである。

したがって、これらの文書が本件条例六条六号に該当するものであることは明らかである。

(三) 本件条例六条六号に該当するとして非開示とされた本件文書について、非開示の理由を具体的に明らかにするためにその内容を具体的に主張立証しなければならないものとすれば、当該文書が訴訟の場において公開されることにより、本件非開示とされるべき文書が開示されたのと同じ結果となって不当である。

しかしながら、原判決は一審被告に非開示事由を具体的に主張立証する責任がある旨判示しているので、一審被告は、関係者の同意を得て、一部文書をあえて証拠として提出し、当該非開示とされた文書が本件条例六条六号に該当するものであることを立証した上、一審被告が同条同号に該当するとして非開示とした本件他の文書についても、事実上の推定により、これらが同条同号に該当するものであることを主張立証することとする。

(1) 東京事務所食糧費関係文書(乙三の2)について

食糧費関係の文書には、個々の懇談内容や会話内容は記載されていないが、出席者などの判明により情報入手源が判明することで行政運営に支障が出ることがあるし、個々の出席者名等が開示されることになるため、懇談会に出席したこと自体を秘密にする必要性がある。

乙三号証の2の本件文書は、平成五年一一月四日東京都内のホテルで県幹部職員と在京佐賀県著名出身者との懇談についての文書である。

右懇談会の出席者の中には、他の重要な会合を断って出席した等の事由により、この懇談会に出席したことを公にしたくない者もあり得る。

また、右懇談会においては、道路行政、時の政権に対する意見や評価が話されたが、これらの懇談内容が開示されるならば、行政運営に著しい支障が生じるおそれがある。

(2) 管理課食糧費関係文書(乙四の2)について

乙四号証の2の本件文書は、平成八年一月三一日から同年二月一日にかけて実施された漁業補償担当者研修会についての復命書であるが、その復命要旨には、某県の漁業補償の適否や漁業補償における留意点などについて話されたことが具体的に記載されている。

既にされた漁業補償の基準に問題があったこと、そのような問題について議論するための会議が開催されたことなどは、それ自体内密にしておかなければならないことである。

右文書が開示されると、漁業者に対し、漁業補償が適切にされたか否かについて不安を与え、また、某県と佐賀県との信頼関係も損なわれることになる。

また、右の会議の存在は、これを契機として補償基準について改正作業が行われるであろうことを予想させるものであるが、このことは、被補償者に対し、過度に期待感を抱かせたり、又は、不安感を与えたりするものである。

さらに、右文書が開示されると、未確定情報があたかも確定した情報のように誤解されたり、未確定情報の一人歩きにより、補償に関する信頼性が失われたりするなどする。

したがって、右文書の開示は、今後の漁業補償事業の遂行に著しい支障を生じさせるおそれがある。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所は、一審原告らの請求については、原判決が認容した部分並びに一審原告味志陽子の請求のうち、原判決別紙文書目録三記載1の文書中の懇談会に出席した公務員の勤務先ないし職場の電話番号の記載されている部分を開示しないとの処分の取消しを求める部分の限度でこれを認容し、その余はこれを棄却すべきものと判断する。

その理由は、次のほかは、原判決の「第三 当裁判所の判断」(原判決五五頁三行目から九七頁六行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の補正

(一) 原判決六七頁二行目の「主張するが」から四行目の「あるとしても」までを「主張し、乙一〇ないし一二号証中にはこれに沿う部分がある。しかしながら」に改める。

(二) 原判決六九頁八行目から九行目及び七〇頁四行目の各「電話番号」の前にいすれも「自宅の」を加える。

2  当審における一審原告の主張について

(一) 本件条例の性質について

一審原告らは、本件条例が公文書中の個人情報に関する部分を非開示とする旨定めていることについて、公文書開示請求権は憲法二一条の知る権利、民主主義・国民主権主義に由来するものであるから、本件条例は、個人の基本的人権と公文書開示請求権とが衝突する可能性のある場合には、公文書開示請求権を優先させるよう解釈運用されるべきであると主張する。

たしかに、民主主義社会においては、自由の討論をする権利が保障されていることが必要不可欠であり、また、自由な討論がされるためには、「知る権利」、すなわち、争点を判断するために必要な意見、情報に自由に接し得る権利が保障されていることが当然の前提とされる。そして、表現の自由の保障を定めた憲法二一条は、その前提としての「知る権利」をも保障しているものと解されている。

しかしながら、憲法二一条所定の「知る権利」は抽象的な権利であって未だ具体化されていないものであるから、地方公共団体に対してその住民が、憲法二一条の規定に基づいて直接、地方公共団体の保持する公文書開示を請求することはできず、右の請求のためには、右の請求をする権利を具体的に定めた法令等の規定に基づかなければならない。

そして、公文書開示請求権の具体的内容をどのように定めるかは立法政策のいかんによるものであるから、公文書開示請求権の具体的内容は、現実に制定された法令等の規定の仕方のいかんによるものというべきこととなる。

本件条例が、憲法二一条に由来するものであり、地方公共団体である佐賀県に対する住民の「知る権利」を具体的に実現するものであることは明らかである。

そこで、本件条例がどのように規定しているかについてみると、まず、本件条例三条は、その前段において「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、公文書の開示を請求する県民の権利を尊重するものとする。」とした上で、その後段において「この場合には、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう配慮しなければならない。」と定め、さらに、六条本文は、「実施機関は、開示の請求に係る公文書に、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは、当該公文書の開示をしないものとする。」とし、その二号本文において、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人が識別され得るもの。」と定めている。

そうすると、本件条例は、公文書を原則として公開すべきものとした上で、そのうちの個人識別情報文書は非公開とするものと定めているのであって、これらの規定からは、本件条例が公文書開示請求権をプライバシー権に優先させる旨定めているものということはできない。

そして、本件条例上、他に、そのように解すべき規定は見当たらない。

したがって、一審原告らの右の主張は、採用することができない。

これについて、一審原告らは、その主張のように解すべき根拠の一つとして、個人情報に関する配慮義務を定めた本件条例三条が「最大限の」配慮をしなければならないとの文言を使用していないとの点を挙げるが、右の文言の有無によって公文書開示請求権とプライバシー権との優劣が定められるものとは到底考えられないから、右の主張は、採用することができない。

なお、本件条例が個人情報を非開示とする旨定めて個人のプライバシー権を保護すべきものとしたのは、個人の尊重、生命・自由・幸福追及の権利の尊重を定めた憲法一三条の規定に由来するものとみられるところ、憲法自体、憲法二一条に基づく権利と同法一三条に基づく権利との間に優劣を認めていないから、憲法上の視点から本件条例を解釈すべきであるとの一審原告らの見解を前提としてみても、一審原告らの前記主張は、採用することができない。

(二) 公務員の振替先金融機関の口座番号について

公務員の振替先金融機関の口座番号は、それ自体は公務員の財産内容を直接明らかにするものではないが、当該公務員の私生活における財産管理に関する情報であって、公務員個人にとっては一般県民にみだりに知られたくないものであるから、本件文書に記載された公務員の振替先金融機関の口座番号が本件条例六条二号所定の個人情報に該当することは明らかである。

これについて、一審原告は、これらの情報が開示されることにより公金の支出が適法に行われたかどうかがチェックできるから、これを公開することが公務員の義務であると主張する。

しかしながら、公務員の個人情報が本件条例六条二号に該当するかどうかは、それがプライバシーに関する情報に当たるか否かによって決すべきものであって、これを秘匿することによって得られる当該公務員の利益とこれを公開することによって得られる一般県民の利益との比較衡量によって決すべきものではないから、たとえ右の個人情報の公開により一審原告主張のような利益が得られるとしても、このことによっては、右の個人情報が本件条例六条二号に該当しないものということはできない。

(三) 公務員の電話番号について

公務員の自宅の電話は、公務の遂行を目的としたものではなく、公務員の私生活の場において使用することを予定して設置されているものである。そして、電話による通話は第三者による私生活への侵入を可能とするものであるから、電話番号をどのような範囲の者に明らかにするかは、当該公務員の自由意思に委ねられるべきものである。

したがって、公務員の自宅の電話番号が、秘匿すべき個人情報として、本件六条二号の情報に当たることは明らかである。

これについて、一審原告らは、公務員の電話番号は一般市民に配布される電話帳や職員録に掲載されており、また、電話局の番号案内によっても容易に知ることができるから、秘匿情報に当たらないと主張する。

しかしながら、、電話帳や職員録には、掲載を希望しない者の電話番号は掲載されないものであり、また、電話帳に掲載されていない電話番号は電話案内によっても知ることができないものであるから、一審原告らの右の主張は、採用することができない。

他方、公務員が所属する部署とその職場の電話番号は、公務員の私生活上の情報とはいえないから、本件条例六条二号に該当する情報ということはできない。

もっとも、公務員が所属する部署とその職場の電話であっても、その電話が特定の業務のための専用電話である等の理由により、一般に公開することを不適当とするものであるときは、その電話番号は、本件条例六条六号の情報に該当する可能性がないわけではない。

しかしながら、本件においては、本件文書中の当該公務員の所属部署とその職場の電話番号がこれに該当するとの具体的な主張及び立証はない。

そうすると、本件文書中の当該公務員の所属部署とその職場の電話番号を非開示とした処分は、違法であるといわなければならない。

(四) 債権者の振替先金融機関口座に関する情報及び印影について

法人等又は事業を営む個人の振替先の金融機関コード、取引金融機関名、預金種別、口座番号、名義人及び印影は、当該法人等又は当該個人にとっては事業活動上の重要な内部管理情報であり、これらが本件条例六条三号に該当するものであることは、原判決(八〇頁一行目から一二行目まで)の説示のとおりである。

これについて一審原告らは、本件条例六条三号所定の「情報」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報にして公然知られていないものであって、その開示により競争上の地位その他正当な利益に対する実質的な被害が客観的に生じると明らかに認められるものに限ると主張するが、そのように限定的に解すべき理由は見いだしがたい。

3  当審における一審被告の主張について

(一) 本件条例の解釈について

一審被告は、本件文書開示請求権は本件条例によって創設された権利であるから、その内容は本件条例の具体的文言によるべきであり、また、その運用は本件条例を形式的に解釈して行われるべきであるとした上、プライバシーに関する情報であることを非開示の要件に加えたり、個人識別情報に当たるか否かの判断に当たり公務員と非公務員との間に差異を設けたり、内部協議目的かそれ以外の単純な事務打合わせかというような基準を設けたりすることは、明文の根拠がなく、不当であると主張する。

しかしながら、法令等の解釈は、規定の具体的文言を重視して行うべきものであるということはいうまでもないが、そのほか、当該法令等の目的、解釈・運用の基準等を定めた総則規定、当該法令の制定の経緯等を総合勘案して行うべきものであり、単に規定の形式的文言の文理解釈のみにとどまるべきものではないから、一審被告の右の主張は、採用することができない。

(二) 本件条例六条二号について

一審被告は、本件条例六条二号は、一律に個人識別情報を非開示とする旨定めており、プライバシー権に関する情報のみを非開示とする旨定めたものではないと主張する。

しかしながら、本件条例六条二号が、個人識別情報のうち、プライバシー権に関する情報のみを非開示とする旨定めたものであることは、前記(一)及び原判決(五八頁一行目から六一頁八行目まで)の説示のとおりであるから、一審被告の右の主張は、採用することができない。

(三) 本件条例六条三号について

一審被告は、債権者の請求書は不特定多数の者に開示することを予定しない内部管理情報であって、本件条例六条三号に当たると主張する。

しかしながら、債権者の請求書がこれに当たらないことは、原判決(七八頁七行目から七九頁一一行目まで)の認定判断のとおりであり、この認定判断は当審における証拠調べの結果(乙五ないし七)によっても左右されないから、一審被告の右の主張は、採用することができない。

(四) 本件条例六条六号について

(1) 本件条例六条六号の規定は、開示することが原則とされる公文書の情報について、「開示することにより、当該検査等若しくは同種の検査等を実施する目的を失わせ、これらの検査等の公正かつ円滑な実施に著しい支障が生じ、又はこれらの検査等に関する関係者との信頼関係若しくは協力関係が著しく損なわれるおそれのあるもの」については、例外的にこれを非開示とする旨の規定であるから、右の「おそれ」は、一審被告において、具体的にこれを主張しなければならない。

これについて、一審被告は、「おそれ」とは、将来の不確定な可能性についての予測であるから、抽象性を捨象することができないとして、非開示の要件として、具体的に右のおそれが存在することは必要でないと主張する。

しかしながら、右の「おそれ」が将来の不確定な可能性についての予測であったとしても、必ずしもこれを具体的にすることができないというものではないから、一審被告の右の主張は、採用することができない。

(2) 一審被告は、懇談会等(食糧費支出)の目的(名称)・開催場所・出席者の氏名等出席者が識別できる情報が記載されている部分が開示されると、会議内容そのものの予測がついたり、出席者に会議内容を問い合わせて具体的な発言内容を知ることも可能であると主張する。

しかしながら、本件各文書中の会議の目的(名称)の記載が抽象的なものにすぎず、これによってはその協議内容が了知される可能性があるとはいえないものであることは原判決(九一頁一二行目から九三頁一行目まで)の説示のとおりであり、また、その懇談会が内密の協議を目的としたものであるときは、たとえ出席者に対して問合わせがされたとしても、出席者がこれに応じてその協議内容を暴露するというような可能性は、内密の協議の性質上ほとんどないというべきであるから、右の情報の開示によっては、具体的に前記の本件条例六条六号の「おそれ」があるということはできない。

(3)① 東京事務所食糧費関係文書(当審乙三の1・2)について

当審乙三号証の1及び2の文書は、平成五年一一月四日東京都内において開催された懇談会の情報が記載された各文書であるが、これによれば、そのうち、支出負担行為伺の債権者の郵便番号・住所・氏名、摘要、同別紙の件名、出席者の省庁名・所属・氏名、支出(払出)命令書の債権者の住所・氏名、債権者の口座振替先の金融コード・店名・預金種別・口座番号・名義人、摘要、支出負担行為済報告書の場所、目的、支出負担行為担当者の職、氏名、同別紙の件名、出席者の省庁名・所属・氏名の各欄の記載が非開示とされたことが認められる。

しかしながら、右の文書の情報が本件条例六条六号の情報に該当しないものであることは、次のほかは、原判決(九三頁二行目から九四頁一行目まで)のとおりであり、この認定判断は、当審において取り調べた証拠(乙一五)によっても左右されない。

これについて、一審被告は、懇談会の出席者の中には、出席したこと自体を公にしたくない者もあり得ると主張する。

しかしながら、懇談会の出席者について本件条例六条各号の非開示事由があるというためには、その非開示事由該当性を出席者ごとに個別具体的に主張立証しなければならないところ、右の主張立証はない。

また、一審被告は、右の懇談会においては、道路行政、時の政権に対する意見や評価話がされたが、これらの懇談内容が開示されるならば、行政運営に著しい支障が生じるおそれがあると主張する。

しかしながら、当審乙三号証の1及び2によれば、右の文書中の非開示とされた摘要・件名・目的の各欄には、単に「佐賀の未来を語る会」とのみ記載されていることが認められるところ、この記載からはもとより、これと右の文書中の出席者氏名等の他の記載とを組み合わせてみても、右の懇談会において一審被告が主張するような点が懇談されたことを知ることはできず、いわんや、懇談の具体的内容までは到底知ることができない。

したがって、当審乙三号証の1及び2によっては、右の懇談会が内密の協議を目的としたものと認めることはできない。

② 管理課食糧費関係文書(乙四の1・2)について

乙四号証の1及び2は復命書であるが、これによれば、その開示された部分である用務欄には「平成7年度港湾管理者漁業補償担当者研修」、年月日欄には「平成8年1月31日(水)〜2月1日(木)」の各記載があり、また、復命要旨欄には「1、研修会について2、漁業補償における問題点 3、研修会内容」の項目のもとに、「1、研修会について」の欄には、この研修会開催の目的の記載があるほか、括弧書きとして、某県(県名を具体的に記載)の漁業補償に関し、監督機関による検査及び資料の提出要求がされた旨の記載があり、また、「2、漁業補償における問題点」の欄には「(1)純収益の資本還元率8%(年利)の妥当性、(2)漁場放棄等に関連した総会の開催に要する費用の補償、(3)代替漁場要求に対する対応等がある。(損失補償基準の総点検の一環)」の記載があり、「3、研修会内容」の欄には「別紙資料参照」との記載があること、右の復命要旨のうち、「1、研修会について」の欄のうち括弧書きの部分と「2、漁業補償における問題点」の欄のうちの「中央用対連の第2研修会で2〜8年度にかけて検討中である」との部分を除くその余の部分がそれぞれ非開示とされたことがそれぞれ認められる。

しかしながら、右の非開示とされた情報のうち、「1、研修会について」のうちの非開示部分については、たしかに、右の非開示部分の記載内容は某県の漁業補償事務担当者にとっては不名誉なことともいえようが、仮に右の文書に記載されたような事実があったものとすれば、そのような事実が開示されることは、某県の住民にとってはむしろ望ましいことであり、某県の当該担当者にとってはこれを甘受すべきものである。

そうすると、一審被告が何らかの不当な意図のもとに積極的に右の文書の記載内容を公開したとでもいうのであれば格別、そうではなく、本件条例に基づく開示請求によってこの情報を開示したとしても、そのことによって、本件条例六条六号所定の検査等に関する関係者との信頼関係若しくは協力関係を「著しく」損なわせるおそれが生じるものとは認めがたい。

また、「2、漁業補償における問題点」のうちの、非開示部分は、問題点三項目を羅列したものであるところ、一般に、漁業補償担当者の研修においてこれらの点が協議されるであろうことは、通常予測し得ることであるから、右の各項目自体は、秘匿されるべき情報に当たるということができない。

また、右の各項目は問題点のみを掲げた抽象的な記載であるから、右の記載からは、未だ協議の具体的内容を了知ないし推測することはできない。

そうすると、たとえこれが開示されたとしても、そのことによって、当該検査等若しくは同種の検査等を実施する目的を失わせたり、これらの検査等の公正かつ円滑な実施に「著しい」支障を生じさせたりするおそれが生じるものということはできないものといわなければならない。

これに対し、一審被告は、これらの情報が開示されると、事業の実施に悪影響が生じる旨を主張し、乙一一号証中にはこれに沿う部分がある。

しかしながら、一審被告の右の主張及び乙一一号証中の右の部分は、いずれも具体的事実に基づくものではなく、意見ないし憶測にすぎないものであるから、これをもって本件条例六条六号の前記「おそれ」があるということはできない。

(4) なお、一審被告は、右の当審乙三号証の二及び四号証の二の各文書について本件条例六条各号所定の非開示事由があるとした上、これにより、他の同種文書についても非開示事由の存在を推認すべきであると主張する。

しかしながら、右乙号各証について非開示事由が認められないことは前記(3)のとおりである。

また、非開示事由の存在は各文書ごとに個別具体的に主張立証されるべきものであるから、一部文書について非開示事由があるからといって、そのことから直ちに同種の他の文書についても非開示事由があるものと推認することはできない。

したがって、一審被告の右の主張は、採用することができない。

二  以上のとおりであって、一審原告味志陽子の請求のうち、原判決別紙文書目録三記載1の文書中の懇談会に出席した公務員の所属する部署とその電話番号の記載されている部分の非開示処分の取消しを求める部分は理由があり、原判決のうち、これを棄却した部分を不当であるから、右の棄却部分を取り消し、一審原告味志陽子の右の請求部分を認容し、一審原告味志陽子のその余の控訴並びにその余の一審原告ら及び一審被告の各控訴はいずれも理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山口忍 裁判官原啓一郎 裁判官西謙二は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官山口忍)

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